Pop Culture Boyの趣味趣味ブログ

映画・漫画・小説のレビュー

【無駄の無い構成が光る内省的ロードムービー】ドライブ・マイ・カー

ジャンル 

ヒューマンドラマ/邦画/2021 年/濱口竜介監督作。

dmc.bitters.co.jp

 

あらすじ

 舞台俳優兼演出家の家福悠介。脚本家である妻の音が浮気をしていることに気づいていたが、話さぬまま日々を過ごしている。そんな中、帰ったら話があると音に告げられた夜、家福が帰宅すると音はくも膜下出血で倒れおり、突然に亡くなってしまう。
 2年後、演劇祭で演出を担当することになり、愛車で広島に向かった家福は専属ドライバーのみさきを紹介される。口数は少ないが確かな技術を持つみさきと時間を共有するうちに、初めは嫌がっていた家福も次第に心を通わせていく。そうした中で、音に関する過去の事実が明らかになるとともに、ある事件が起こる。演劇の開催が危ぶまれる中、家福はみさきとともに過去を見つめ直し、ある決意をする。

満足度

9/10点:「人との会話を大事にする」と言うメッセージが今の自分に刺さった。

なぜ観たのか?

同じ濱口監督の作品「寝ても覚めても」を観て、面白かったため。(後味悪い映画だったが)

おすすめポイント

  1. メッセージ

    本作を観て、人と対話することの大事さを改めて気付かされた。
    情報が飽和している現代では、多くのソースから情報を受け取る一方で、人に対して正面から集中して向き合う機会が減っているように思う。
    自分も思い返せば、人との話をスマホをいじりながら聞いてしまったりしていて、会話に集中していないことが多い。
    だが人は社会で生きていくもので、その本質は人との相互理解である。
    身近な人との会話を大切にしながら、生きていこうと思った。
    たとえ会話の先に衝突が待っていようとも、自分の考えを伝える、相手の話を聞くべきなのだ。嫌な思いをすることがあったとしても、正しく傷つくべき」なのだ。

    また、人が前に進むには、時には人の助けも必要だと言うことも感じた。
    家福はみさきの協力で、過去を振り返り前を向くことができた。ドライブ・マイ・カーと言うタイトルには、自分の人生を他人に預けて、一人では辿り着けないところに連れて行ってもらうという意味も含まれているのだと思う。何かと自分一人でなんとかしがちだけど、人に助けてもらって前に進むことも大事だ

  2. 丁寧な演出
    本作はメインのストーリの他に劇中劇がいくつか出てくる。家福が演出をする「ワーニャ伯父さん」や音が性行為の後に語る「好きな男の家に忍び込む女子高生」といった劇中劇が、登場人物の感情やストーリーを補完することで物語に深みを与えているし、その出し入れが絶妙だ。

    また、音と対話できなかった家福とは対照的に、韓国人キュレーターのユンスが聾者の妻ユナと心を通じあわせていたり、岡田将生演ずる高槻が良くも悪くも自分の感情に素直に生きる(車中でのワンカットでの演技には震える!)姿が描かれる。こうした登場人物たちのセリフによって、多くを語らなくてもストーリーに説得力を持たせていて、上手いと思った。

  3. ロードムービーとしての画力(えじから)
    映像としても優れている。色々な角度から撮られる走る車や、セリフの無い表情だけのカットが、心情を雄弁に語っている。中でも、みさきと家福がサンルーフからタバコを持った手をあげるシーンは、今後も語られるべき名シーンだと思う。

何を得たか?

本作を観て、次のことをやってみようと考えた。

  • 集中して人と向き合う
  • 自分がどうしたいかを考えて伝える
  • 困って動けなくなった時には、人の助けも借りて前に進む

日常で生きる中では目先の自分ごとに精一杯になってしまいがちだけれど、人との対話を大事にしていきたい。忘れそうになった時には、都度この映画を振り返り観たいものだ。三時間あるので、少し及び腰にはなるけれども。

何を得たか?

ドライブ・マイ・カーが収録されている村上春樹の原作「女のいない男たち」も気になる。どうも、「女のいない男たち」のいくつかの短編が映画には反映されているらしい。

1Q84以降の村上春樹作品は読んでいないし、「女のいない男たち」も読んでみたいと思う。

【道徳的ファーストコンタクト系SF】ガニメデの優しい巨人

ジャンル 

SF(1981年)

 

あらすじ

前作「星を継ぐもの」から三ヶ月後、木星探査を続ける宇宙船「ジュピター5」の前に、2500万年前に歴史から姿を消した巨人の異星人「ガニメアン」が突如現れる!

ガニメアンの誇る人工知能「ゾラック」の助けの中、人類と異星人のファーストコンタクトが行われ、主人公ハントとダンチェッカーのコンビもガニメアンと親交を深めていく。

母星ミネルヴァを離れて20年ちょっとしか経っていない(が、特殊相対性理論により現在に現れた)彼らにとって、地球で文明が発展したことは驚くべきことであった。ガニメアンは争いの無い世界に生きていて、地球は争いの絶えない「悪夢の惑星」であったからだ。

やがて、ガニメアンは地球にやってくる。大歓迎を受けるが、ガニメアンは地球に永住する道は選ばなかった。人類の祖先である「ルナリアン」が月に残した痕跡から、自分たちの出発後にガニメアンが移住した可能性のある「巨人たちの星」の存在が明らかになり、旅立つことを決意したのだ。

その決断の裏には、地球人に対するガニメアンの優しさと、贖罪の心があった。ガニメアンになぜ争いという概念が無いのか?またなぜこんなにも獰猛で争わずにはいられない地球人がなぜ生まれ、なぜ発展できたのか?全てのことには理由があったのだ。ハント達が謎を解き明かし、一つの真実が明らかとなったところで、ガニメアンが旅立って物語は終わりを告げる。

満足度

9/10点:前作「星を継ぐもの」に負けず劣らずの傑作。


なお、「星の継ぐもの」のレビューはこちら。

pop-culture-boy.hatenablog.jp


おすすめポイント

  1. ガニメアンの優しさ

    今作を読んでいる中で、最も印象に残るのはガニメアンの考え方である。

    例えば、人と人とで争ったり、誰かを傷つけることは良くないと誰もが思っているが、人類史とはすなわち争いの歴史でもある。その矛盾をガニメアンは「精神疾患」と表現する。こんなことは考えたこともなかったし、争いを良しとしないガニメアンの考え方は社会的で進んだものであると感じる。

    また、他のSFでは地球を侵略しようと勇み乗り込んでくるエイリアンが多い中で、ガニメアンは歓迎されてやってきた地球に対して永住を否定する。そこには人類にとってまるで親であるかのように、次の世代にバトンを渡すというガニメアンの考えがあった(理由は他にもあるのだが、それは読んでのお楽しみ)。これも、新大陸を見つける度に侵略を繰り返してきた人類の歴史と比べると、かなり進んだものである。

    このように、ガニメアンはとにかく「優しい」のである。
    ガニメアンのように生きたいと本気で思った。

  2. 過去のSFが現実になってきている実感
    キャラクターでいうと、今作で最も印象的なのは人工知能「ゾラック」であろう。
    翻訳もしてくれれば、科学的考察もしてくれれば、小気味良いジョークまで言ってくれる。それは正に、SiriやAlexaといった現代のAIスピーカーが実現しようとして
    いるものそのものである。
    「人間が想像できることは、人間が必ず実現できる」という言葉があるが、当時の作家が思い描いていた未来がすぐすぐそこまで来ている事に、ゾクゾクする。

  3. 爽快な読後感
    前作「星を継ぐもの」は次々と明らかになる事実とその考察を中心とした会話劇だったが、今作はガニメアンとの邂逅という一つの筋があるストーリーものとなっている。ただ、最後に全ての謎が一つにつながった時の気持ち良さは今作でも健在。

何を得たか?

前作「星を継ぐもの」のレビューでは「ビジネススクールで教材として使っても良いのではないか」と言ったが、今作「ガニメデの優しい巨人」は道徳の教科書としても良いのでは、と思った。流石に話が長すぎるかもしれないが(笑)

とはいえ、ガニメアンが言うように人と人とが争っても良いことはない。ガニメアンのように優しく生きたい、と本気で思った。今度から尊敬する人を聞かれたら、ガニメアンだと言おう。

次は?

いよいよ、次はガニメアンシリーズの最後「巨人たちの星」の感想を書きたいと思う。ガニメデの優しい巨人は次に繋がる終わり方をしたので、楽しみだ。

【真実を探求する考察系SF】星を継ぐもの

ジャンル 

SF(1977年)

あらすじ

月面で死体が発見されるが、その死体は5万年前のものだった!試験技師として調査グループに参加した主人公のハントは、情報をまとめる役割を与えられ、次第にこの謎を解く中心人物となっていく。
調査の結果段々と明らかになっていく新事実に対してハントを始めとした多くの技術者が時には協力、時には意見を対立させながら、謎の解明に向かって歩みを進めていく。

そうした中、木星の衛星ガニメデで木星人の死体と共に巨大な宇宙船が発見され、ハントは調査のために木星行きを決意する。全ての謎が繋がり、最後に明らかになる真実は、地球をも巻き込むアッと驚くものであった。

満足度

9/10点:理屈っぽい人は大好きになると思う。

おすすめポイント

  1. 理系受けすること間違いなし。小気味良い論理展開によるスッキリ感

    本作には宇宙が舞台だが、例えばスターウォーズのような派手なアクションは全くない。そこにあるのは証拠→仮説の繰り返しによる、おじさん同士の会話のみだ。話の作りとしてはミステリーにも近いが、話には起伏が多くて展開が気になって次へ次へと飽きることなく一気に読んでしまう。
    過去に出てきた証拠が現在の証拠と結びついて新たな仮説が生まれたりなど、伏線回収の妙もあり、不思議な魅力がある。
    最後のオチも、こうきたか〜となること請け合いで、読後感もとても良い。

  2. キャラクターの良さ
    主人公のハントはユーモアのある柔軟な人物で、意見が対立する人物であるダンチェッカーは偏屈な学者という趣。どちらも、こんな人達いるわ〜、と思わされるが、意見の対立は起こるものの、どちらも真実に向かって手を取り協力しながら進んでいく姿には感動を覚える。また、登場人物に感情移入しながら読むと、自分も頭が良くなったように感じられて得した気分になる。

何を得たか?

仮説と検証を繰り返して真実を追求する姿勢と、自分の意見が絶対ではない、ということを学んだ。どこぞのビジネススクールで教材として使っても良いのではないか。

それは冗談として、SFという題材ではあったが、この考え方は実生活でも十分使えるものだなと思う。ハントのように、余裕を持ちながら俯瞰して全体を捉え、人生を切り開いていきたいものだ。

ガニメアンシリーズとは?

星を継ぐものは続き物でガニメアンシリーズとも呼ばれていて、「ガニメデの優しい巨人」「巨人たちの星」と話が繋がっている。

次は「ガニメデの優しい巨人」の感想を書きたいと思う。